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スラーは何をつなぐ?〜音楽クイズ解説


今年の夏祭りの中でクイズのコーナーがありました。

全10問、参加者には終了後に、問題と答えを印刷して参加者全員にプレゼントしました。

皆さんから各問題の解説を聞きたいとリクエストをいただきましたので、タイトルに「〜音楽クイズ解説」と付けた投稿をこうして時々しています。


一回目の投稿には、このクイズコーナーがどういう楽しいものだったかというお話と共に、一番軽い問題の二つを夏祭り全体のご報告の中に含めました。

ひとつは「バロック時代の代表的な作曲家ではない人は誰でしょう」。

①バッハ ②ヘンデル ③グレーテル …軽いジョークです。

もうひとつは「ドイツ三大Bと呼ばれる三人のうち、息子も有名な作曲家になった人は誰でしょう」。

①バッハ ②ベートーヴェン ③ブラームス


そして9月頃の二回目には、ヘンデルの作品についての、ちょっとためになる興味深い問題を、詳しく解説しました。



今日は楽譜に関するクイズを振り返ります。

楽譜には音符と休符のほかにもさまざまな用語や記号が書いてあります。

その中で割り合い初歩の頃に教わる「スラー slur」という記号。

音符と音符をなめらかな弧を描く線でつなぎます。



クイズの問題は次のようなものでした。


楽譜に書かれるスラーという記号が表すことではないものは、次のうちどれでしょう

①管楽器で、タンギングをせずに一息で吹く

②弦楽器で、ボゥイングを折り返さず一弓で弾き切る

③歌で、歌詞の文章の中の、ある句読点から次の句読点までをあらわす


答えは③です。


歌の楽譜に書いてあるスラーは、文章の句読点などではなく、“メリスマ”です。

メリスマとは、歌詞の単語の中のひとつの音節を使って、複数の音符を歌うことです。

「夕焼け小焼けの赤とんぼ」の中の「小焼け」の「けー」のように。

讃美歌の『あら野の果てに』の中の「グローリア」の「ローーー」のように。




器楽で、特にピアノでスラーの意味として一番多く使われるものは、「音をなめらかに繋げて(レガートで)演奏する」という意味です。


ですが、その意味ひとつだけしかないと思っているかたが、とても多い。

この答えにある、①管楽器の「ノータンギング」(※タンギングとは舌の動きで音を切る表現)、②弦楽器のボウィングの中の一つの奏法のように、他の意味をも持っているのです。




数年前に講師を頼まれた、音楽講師さん向けの講座。

講師資格免許試験の筆記課題から誤答の多かった過去問題を取り上げて、その内容と間違えてしまう原因を解説するという場面がありました。


その一番初めに出てきたのが、ある楽譜を見ていくつかの質問に答える問題。

この楽譜は実は弦楽器の楽譜でしたが、明確に弦楽器という言葉は表記してありません。

その質問の中のひとつで、スラー記号の意味を問われていて、かなり多くの方がフレージングと答えられたようです。

フレージングとは、ある音からある音までを、表現のひとまとまりとすることです。


ですが、弦楽器でのスラーはほとんどの場合“ボウイング”。

スラーで囲われた音は、(‘上げ弓’‘下げ弓’どちらか)一方向で弾き切ってほしい、という意味です。



そして管楽器、特に木管楽器でのスラーは、“ノー・タンギング”。

つまりタンギングしないでひと息で吹き切ってほしい、という意味。


そしてピアノでは、フレージングを表すことがとても多いですが、ここで気をつけなければならないのは、時代や作曲家によってスラーの意味が変わること。


例えば古典期のピアノ作品では、メロディの表現に対して助言をするために、「このメロディをもしも弦楽器で弾いたとしたらこういうボウイングになります。そのような表現をして弾いてください」という意味のスラーが、楽譜に書いてあることも多いのです。

特にモーツァルトに。

ピアノだけでなく、弦楽器以外の楽器のいろいろな楽譜にもあります。


これをそのまま額面通りにフレージングの意味だと受け取って弾くと、おかしな演奏になります。

例えばスラーで囲っていない音はすべて切り離して弾くのか、また、スラーの切れ目は必ず音を途切らせるのか、など、そんなはずがないナンセンスな捉え方も出て来てしまいます。

かと言って、レガートで弾いてもよい音すべてをスラーで囲うなどは、ロマン派期のような演奏になりかねませんし、そんな表記は現実的ではありません。



この試験問題は、「提示された楽譜が弦楽器のものだと見抜けるか」がポイント。

でもよく見ればそのヒントはとてもたくさん、あちこちに書いてありました。

音楽を専門的によく勉強して来ている人が見れば明らかに、弦楽四重奏の楽譜以外の何物でもなかったのです。



講師免許試験ですから、ピアノという楽器の音の出し方だけを教えるのではなく、ホンモノの音楽を教える講師であるためには、ピアノ以外の楽器も指導の話の中に出てくるはずです。

そして、アンサンブル演奏の編曲などを生徒さんのためにしてあげるには、当然ピアノ以外のいろいろな楽器の知識が必要です。


肝心のピアノ演奏の中でも、いろいろな音楽記号や音楽用語は、時代によってその意味が変わる、すなわち演奏方法が変わる、ということも生徒さんにしっかりお伝え出来なくてはなりません。

特にスタッカートは、とっても意味深いです。




生徒さんのためのイベントであった夏祭りのクイズでは、講師になれるような専門知識はもちろん不要です。

ですが普段からスラーの持つ意味を何度もレッスンで話題にして来ましたので、そこから消去法で答えが出せるといいなと思いました。

特に歌のクラスの方は、「スラーはメリスマ」と思って演奏出来ている方ばかりでしたのでね。


正解率は、、、、言わないでおきましょう。。

ふざけた問題や専門知識不要の問題ばかりの中で、数問だけあった少しレッスンを思い出して欲しかった問題のひとつでした。

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