音楽のレッスンはアウト・イン・アウト
- Naito Ikuko
- 6月12日
- 読了時間: 3分
「アウト・イン・アウト」という言葉が好きです。
カーレースの用語で、コーナーを早く走り抜けるためのドライビングテクニック。
「レースの中での理想的なコーナリングライン」だそうです。
こじつけのようですが、演奏というものへの取り組み方もアウトインアウトだなぁと思っています。
外側の見通しの良いところから入っていって、内角ギリギリにと突っ込んでいって、そして最後は大きく膨らんで抜ける、というその感じが。
レースを観ていても、それが上手い人は速いということが、素人ながらにもおぼろげに感じています。
誰にとっても音楽の世界と自分との関わり方には、広く浅いところもあります。
そして突っ込んでいくととても深い専門的なところが見えてくる。
生徒さんが音楽教室の門を叩く時には、これが学びたいという専門的なピンポイントなところを求めて来る方はほとんどいません。
ですが実は先生ははじめに思っていることがたくさんあるのです。
「ここは実はこういう深い意味があって」
「こういうことも勉強しないと本当の音楽はできませんよ」
初めからそんな専門的なところをお話しすると、当然ですが皆さん怯んでしまいますね。
良い先生というのはご希望に沿った緩やかなレッスンの中で、いつの間にかじわじわとその方の解る伝え方で柔らかく伝えています。
そのような教え方が先生の技としては上級技で、やりがいもあります。
そうしていくうちにいつの間にか生徒さんが、肝心な核心を突いたことを解ってくださったり、明確に解らなくても心の奥底にそれらが染み込んでいたり。
そのような変化を感じると教師冥利に尽きるし嬉しいです。
何年も教えたころに、その生徒さんが持てるようになった専門的な感覚を自覚していただき、習っていない方はそこまでのことを感じられず解らない方が普通、と話題にすると、その比較にご自分でも驚かれます。
または生徒さんの方から、「友達と話していて、私って音楽のこと結構深く色々知ってるんだなって思って嬉しくなりました」そんな経験をお話しくださったりすると、とても嬉しいです。
専門的なことといってもいろいろあるので、そのどれか一つでも二つでも極める。
例えば、歌詞の読み取り方、ピアノの和声の響きの捉え方、楽器の音色の作り方、作品の時代による楽譜の読み取り方と奏で方の違い。
そういうことをポイント一つでも解ってくださる方になって、それを元に良い演奏をしてくださるようになり。。
そしてその行き着く先はというと、、無意識で何も考えずに広々とした心で、ただ楽しいと感じながら演奏した時に、それが素晴らしい演奏になる、というところ。
これは、習う前の知らないが故の広さとはまったく違う世界です。
私の生徒さんには、そういうふうになってくださってる方がもう既にたくさんいらっしゃって、そういう方は発表会などで演奏したりプロの演奏を聴きに行ったりした時に、細かいことを考え過ぎたり言ったりせずに、無心になってただ純粋に楽しんで演奏したり聴いたりされています。
広いところから入ってきて、狭い道を通って、広いところへ抜けてゆくという感じが、私は理想の習い方だと思います。
本当に音楽のレッスンって、何年も何年も掛けてのことですが、アウト・イン・アウトなのです。

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