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芸術の質問に正解は無い

私はよくレッスンで質問をします。

いろいろな場面で、その生徒さんに自分の言葉で喋って欲しいことことがあります。

そこで、なんと答えたら正解なのだろうにふうに考える方がとても多い。


長年レッスンを受けている方にはいつも言っていますが、「正解は無いですからね」「自分の言葉で言いたいことを言ってくださいね」と必ず注釈をつけないと、なぜか皆さん考え込んだ顔をされます。


質問をする、会話を持つということによって、そのレッスンの内容について何かを伝えたり感じてもらったり。

せっかく人間が人間にお教えしてるのですから、会話を持つということは本当に大切だなと思います。

と、そんなに深く考える以前に、私そのやり方がやっぱり好きなのです。

いつも無意識に質問をしてしまいます。


その質問にはほとんどの場合、正解というものが無かったり、答えが何通りもあったり。

その上私が思いもしなかったような答えが返ってくることもある、というふうに楽しみに思っているのです。

教科書に書いてあるような正解を言わなきゃいけない、というふうに思う方が、長年習ってる方でもいらっしゃいます。


例えば、新しいレッスン曲を始めた時に‘譜読み’というのします。

譜読みというのは深い意味があっていろいろなことをするのですが、順々にやるべきことをやっていって、「この作品はどんな作品だと思いますか」といった漠然とした質問を最後の方でしたりします。

作品の特徴ですね。

そういうことは、感じる人が十人いたら十通りの答えが返ってくる。

「こういう感じの音楽じゃないかしら」「ここの部分が特徴的ですよね」「このあいだ習ったあの話がここに出てきましたね」。

本当に一人ひとり皆、言うことはきっと違うだろうなぁと思っています。

どんなこと言ってくれるだろうと思って質問するのです。

なのであまり考え込んで欲しくありません。

その時の気分でペラペラと、なんていうことのないことをしゃべっていただけたら、それもまたこちらのその後どんなふうにレッスンを進めていったらいいかの道筋になるのです。

この方はここのところはよく解っていらっしゃるなぁとか、この方はこのあたりの印象が強いみたいだなとか、この部分でもしかしたらちょっと腑に落ちていないのかなとか、そういうことを私がその会話の中からつかんで、次の話につなげていく。

その日のその先のレッスンはどういうふうに進めていくかということにつなげていけるのです。


練習曲をレッスンしている時。

練習曲というのは一つ一つ課題があります。

この曲を弾くとこういう部分が上手になります、こういうテクニックが身に付きました、という課題。

この練習曲を弾いたらどういう効果があると思いましたか、この練習曲の課題はなんだと思いましたか、というようなことをお聞きした時。

これは、さぁなんだろう?と真剣に考えていただくのもいいかもしれないですね。

その課題が何なのかがわからずに弾いていたのでは、やる意味がないので。

でもそれだって複数答えがあると思います。

課題は1つしかない練習曲というのはありません。

メインになる課題が一つ二つと、それに付随した課題がいくつかあるのが普通です。

何を言ってくださるかで、その方にとってその練習曲はどんな角度からどういうふうに見えているのかが、こちらにもわかるのです。


プロの演奏をご一緒に聴いた時。

今の演奏に対してどう思いましたか?

敢えて、どういう人か、特徴や評価などはまったくお伝えせずに聴いたりします。

そうすると音楽的な感性を持っている方は、無意識に簡単な平易な言葉で、そのプロの解釈やその解釈したことの表現の特徴のようなものを言ってくださいます。

「こういう感じがしました」というように言ってくださると、この方には伝わったのだという感じがします。

でもそれだって聴く人によって、演奏した本人が思ってもみなかった印象を受け取ってくれる人がいたりして、それがまた音楽のおもしろいところなのです。

だから立派なことを感想として言えないと格好悪いというように思ってしまうと何も言えないので、素直にご自分が感じたことを言ってほしいです。

「とってもきれいな音でしたね」「こんな気分になりました」「こんな映像が思い浮かびました」などなど、ご自分にしか言えないようなことを言っていただくというのは、プロの演奏を聴いた時の感想としてとても良いことです。

カッコイイ言葉を使わずに「すごく気分が良かったです」「キレイだったわ」「あぁ、気持ちいいですねぇ」「なんだか聴いていたら元気が出てきました」「気分がスッキリしたわ」、そんな程度のことでもいいのです。

プロの演奏に対する感想というのは、そういう感じであるべきじゃないかなと思います。


あとは生徒さんご自身の自分の演奏。

弾いていただいて、「ありがとうございました。今の演奏についてどう思いますか?どうだった?」などと訊くのです。

それも、何を言ったら正解ですと言ってもらえるのかなというような顔をする方も、未だにいるのです。

「なんだか今日は疲れていたのであまりうまくできませんでした」「なんか昨日めっちゃ練習したんで今日うまくいったと思うんですけど、どうでした?」「楽しかったです。この曲はやっぱり好きだなぁ」「この部分がどうしてもやっぱりできないんですよね」「このあいだ先生に直していただいたここのところを一生懸命やってきたんですけど、直ったと思うんですけどどうでした?」というような感じのことなどを、気軽にペラペラと喋っていただけると、どんな気持ちでその曲を楽しんでらっしゃるのか、実はあまり楽しくないのかな、次の曲に行っちゃったほうがいいのかな、このことはちゃんと伝わったな、これはもう一回言ってあげなきゃいけないかな、そういう課題への意識のようなものが、会話の中からわかるのです。


そして、テストをしているつもりはまったくないのですが、これはどういう意味でしたっけ?先日教えましたよね、というような感じのことを訊いた時。

専門用語はもちろんその意味を教えます。

例えば「クレッシェンド」これは「だんだん大きくしていく」という意味ですよね。

はっきり言ってしまうと、専門用語の名前よりもその意味の方が100倍大切。

ですが、意味を解っているのにその専門用語が思い出せないから答えるのに躊躇したり、あげく「解りません」と言ったりする方がいらっしゃいます。

それはもうレッスンの本末転倒で、「何だったっけ?名前を教わりましたね。ちょっと名前は忘れちゃったんだけど、でも意味はこうですよね」「意味はこれこれこういうことですよね。でもたしか名前ありましたよね?」というような感じで言ってくれた方が、ずっとその方は優秀な生徒さんだと私は思います。

肝心なのは内容です。


長くなりましたが、生徒さんによく質問をしますというお話。

気軽に自分の言葉で自分の思いを、簡単なことをパッと答えて下さるとすごくいいのになぁと思っています。



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